「ジョッキが自ら倒れにいった」
「なわけないじゃない…ですか!」
私はおしぼりでビールの海を狭めていく。
「碧斗くん、もっと焦って!」
「お前、ズボンにもかかってんぞ。
しかも、股のところ!
わはははは!」
「うわー、どうしよう」
もう、いっつもこんな感じなんだから。
レストランに行けば、グラスを倒す、
水族館に行けば、チケットの半券をなくす。
ドライブに行けば道を間違える。
ほんと、しょうがない奴。
「俺、トイレでズボン洗ってくるわー」
と言って碧斗は部屋から出て行った。
「洗ったら余計に股のところが
びちょびちょになるんじゃ…」
山本君はおかしそうにゲラゲラ笑っている。
30分は経っただろうか。
料理はどんどん運ばれてくるが、
碧斗は戻ってこない。



