私の職場は異動が多いため、歓送迎会という名の飲み会がしょっちゅう行われる。

私にはその飲み会が苦痛でしかない。

極度な口下手だから、ここでも上手く会話が続けられない。

心の中であれこれと返事を考えている間に、相手はさっさと別の誰かと会話を始めてしまう。

結果、いつでもどこでも、ぽつんと隅っこの方でひっそりと壁の花と化してしまい、空いたグラスやお皿をまとめたり、新しい注文の品を配ったりすることで、かろうじてその場での存在を保っている。

その姿がさらに哀れみを誘うらしく「ウスイサチ」と揶揄されてしまうのだ。



そんな風に言われるのは、子供の頃からもう慣れっこだ。

無口な私は友達も少なく、学校では同じような性格の女子と窓際で静かに過ごし、クラス内では目立たず、はしゃがず、をモットーに生きてきた。

いつも手が上がらない清掃委員や会計係は必ず私に回ってきたし、学園祭で劇をやるときは縁の下の力持ちである大道具や買い出し係が主な仕事だった。

運動会の組体操では一番下の踏み台になったし、体育の時間の用具の片づけもよく頼まれた。

部活は生物部で、カエルやウーパールーパーの世話をすることだけが、学校での楽しみだった。

生物は会話などしなくても、気持ちが伝わるからいい。



もちろん、そんな暗い自分の性格を変えようと、色々と努力を試みた。

家では鏡に向かって自然な笑顔が作れるように、もう何百回も練習したし、「話を上手く伝える方法」やら「人間関係を円滑にするためには」などという題名の本を読み漁ったりもした。

でも、なにをしてもこの性格は変えられないことを徐々に気づき始め、成人式の日にそれを受け入れることに決めた。

夕顔はいくら頑張っても向日葵や薔薇にはなれない。

所詮モブは物語のヒロインにはなれないのだ。



そしてそんな大人しい私は、職場でも容易に厄介事を持ち込みやすいらしく、今日みたいに退社時間ギリギリになって仕事を頼まれることが多々ある。

こんな時、吉木美沙だったらハッキリとこう答えるだろう。

「課長~時間外の勤務強制はパワハラですよ!私、ジムに習い事に合コンに忙しいんです!」

そりゃあ、私は家に帰っても愛猫のマリモと戯れるくらいしか用がないけど、早く帰りたいのは誰だって同じなのだ。

そんなことを思いながら、資料を作るために、私ことウスイサチは吉沢課長から手渡された書類に目を落とすと、再びパソコンの液晶画面とにらめっこした。