「・・・はあ~。なんだ。良かった。」

和木坂課長は大きなため息をついた。

「え?え?」

「俺、てっきりミチルちゃんが他の男を選んだと思って嫉妬してた。なんだ。そういうことか。安心した。」

「??」

和木坂課長は白い歯を見せて笑顔を浮かべ、改まったように姿勢を正すと、熱い眼差しで私をみつめた。

「ミチルちゃん」

「ハ、ハイ。」

「会ったばかりでこんなこと言われても、困るかもしれないけど。」

「ハイ。」

なに?なに言われるの??

「俺、ミチルちゃんに一目惚れしました。俺と付き合って下さい。」

そう言うと和木坂課長はテーブルに手を付き、頭を下げた。

一瞬、何を言われているのか、頭がついていかなかった。

ワンテンポ遅れて、その意味を脳が捉えた。

「ほえっ・・・え?ええーー?!」

嘘・・・でしょ?

私、今、和木坂課長に告白されてるの?!

嬉しい。

ものすごく嬉しい。

私も好きですって今すぐ伝えたい。

・・・けどっ!!

私の心に赤信号が点滅する。

駄目だ、駄目だよ。

だって今の私は幸田ミチルだから。

ニセモノで今日限りの幸田ミチルなんだから・・・。



「・・・なんてね。」

和木坂課長が頬杖をついて悪戯っぽく笑った。

あ、なんだ。冗談か。

あ~びっくりした!

「も~からかわないでくださいよ!本気にするところでした。アハハッ!」

「いや。本気だよ?・・・告白なんて初めてしたから、俺も緊張した。」

「そ、そんなこと、ありえないし・・・」

「全然、ありえるけど。」

「あの・・・私なんかのどこが・・・」

「俺はずっと誰にも甘えることなく生きてきた。でもミチルちゃんには何故か弱みを見せられる自分がいる。そんな出会いってなかなか無いよ。それにミチルちゃんの笑顔は俺を幸せにしてくれる・・・そう思ったんだ。」

だからその笑顔はニセモノなんだってば!

本物の臼井ちさは明るくなんかない。

もし私が臼井ちさで参加していたら、きっと和木坂課長は私の事なんて好きにならなかったに違いない。

なのに、いま目の前の和木坂課長は、幸田ミチルに大真面目に恋しているようだ。

「きっと俺と君は運命の糸で繋がっているんだ。だって君とは初めて会った気がしない。」

そりゃ、毎日、職場で会っていますから!

「ね、俺達、前にどこかで会ったことない?」

「な、ないです。ないです!私、これにて失礼します!」

逃げなきゃ。

ここから逃げなきゃ。

今ならいい夢を見させてもらえた、だけで忘れることが出来るはず。

私が椅子から立ち上がると、和木坂課長がすかさず私の手首を掴んだ。

「また会って欲しい。返事は急がないから。」

「・・・・えっと。」

「とりあえず、連絡先、教えてくれないかな?」

「・・・・でも。」

「お願いだから。」

和木坂課長が私の手を強い力で握り、頭を深く下げた。

「わかりましたっ!あのっ、だからっ、頭上げて下さい!」

ずっと憧れてた人に、そんな必死な目で訴えられたら、断ることなんて出来るわけがない!

私は再び席に座り、バッグからスマホを取り出した。

「本当にまた会ってくれる?」

「は、はいっ。」

縋るような和木坂課長の視線が痛い。

通路を挟んで隣の席のカップルが、私達の方をちらちら見て笑っている。

ブスに迫るイケメンの図を、きっと面白おかしく思っているのだろう。

でも、今はそんなことはどうだっていい。

これから私、どうしたらいいのーーー?!