フリータイムも終わり、とうとうマッチングの時間がやってきた。

小さな紙にひとりずつ、マッチングしたい相手の番号を書き、スタッフが手早くその紙を集める。

男女共に、お互いの番号が書いてあれば、カップル成立だ。

でも私は本日限りの幸田ミチルだから、誰ともマッチングするわけにはいかない。

予定通り、紙にはなにも書かず空欄で提出した。

どうせ私の番号を書く物好きな男性なんて、いるわけないんだけど。

和木坂課長は・・・きっと誰かとマッチングしてしまうんだろうな。

だってほとんどの女子は、和木坂課長を狙っている。

和木坂課長とマッチングするのは多分、キャリアウーマン風美人の4番か、ふんわりした天然お嬢様風の8番だろう。

和木坂課長の番号は15番。

ああ、本当は私だって15番と書いて提出したかったよ・・・。



「カップル成立は1番と13番、3番と17番、9番と19番の三組です!おめでとうございます!」

「やった!」

隣に座っていた甘城さんが、鼻息も荒くガッツポーズをした。

「甘城さん・・・和木坂さん狙いだったんじゃ・・・?」

「確率論で考えたの!イケメンって人気あるからカップリングになる確率低いでしょ?やっぱりここは手堅く行かなきゃね。私、30歳までに結婚したいから、モタモタしている時間がないの。」

「はあ。」

「幸田さんは・・・カップリングならずか。でもまだ婚活パーティに参加したのはたったの一回でしょ?数こなせば必ずいい人に出会えると思うわよ。それじゃね。チャオ!」

甘城さんはそう右手を挙げて小さく手を振ると、大きなお尻をフリフリさせながら、大人しそうな色白男性と猫カフェから消えていった。

自分の番号である7番が呼ばれなかったのは当然のことだとして・・・和木坂課長の15番も呼ばれなかった。

どうして?

あんなにモテていたのに?

そう思いつつも、心からホッとしてる自分がいる。

だって目の前で憧れの人が、他の女性とカップル成立するところなんて、見たくなかったから。

さて!猫の雑貨を買って、マリモが待つ家へ帰るとしますか。

臼井ちさに戻って、もう二度と婚活パーティなんてものには参加しないことにしよう。

そして幸田ミチルという黒歴史は永遠に封印するのだ。



受付前で参加者全員プレゼントの、キャットフードが入った紙袋を受け取り、猫雑貨を眺めていると、またもや肩を叩かれた。

「ミチルちゃんもマッチング不成立・・・だよな?」

こ、この声は!

私は猫のポストイットを持つ手を震わせながら、振り向いた。

「わ、和木坂・・・さん・・・?」

「そのポストイット、いいね。俺もお揃いで買おうかな。」

和木坂課長はそう言って、私の手にしているポストイットと同じものを手に取り、私のポストイットもサッと奪うと、素早くレジにて会計を済ませてしまった。

「はい。ミチルちゃんの。」

和木坂課長がポストイットの入った小さな紙袋を私に手渡す。

「あっ!代金、払いますので!」

あわてて丸いカゴのバッグから財布を取り出そうとするも、和木坂課長はそれを遮った。

「いらないよ。お近づきの印に俺からプレゼントさせて。」

「?!」

「ねえ、ミチルちゃん。フラれた者同士、食事にでも行かない?」