日曜日の朝。

布団で惰眠を貪っていると、スマホから「ダースベーダーのテーマ」の着信音が流れた。

久々に真紀からの電話だ。

私は寝ぼけまなこで、のそのそと布団から手を伸ばしてスマホを掴み、横になったままそれを顔の前に掲げた。

「もしもし。」

「あーもしもし?ちさ?元気ィ?」

友人である泉真紀の能天気な声が聞こえてきた。

真紀からの電話は100%頼み事がある時だ。

真紀とは小学生時代からの腐れ縁で、お互いの黒歴史を知り尽くしている仲だ。

真紀の元彼はバーテンダー、売れないバンドマン、小劇場の舞台俳優、と付き合ってはいけない3Bと言われる人種全てを網羅している。

地元ではそこそこ有名な食品メーカーの社長の娘であるお金持ちの真紀は、男に貢いで飽きたら次に乗り換える、ということを繰り返している。

私と同様に男運があるとは言えないけれど、私が男性から別れを告げられるのに対して、真紀はいつも自分から男性をフッている。

結果は同じだけれど、フるのとフラれるのでは、ダメージが全然違うだろう。

真紀は小中学校では私と同じグループだったのに、高校デビューをして一気に陽キャになった。

そしてルックスも私とは対照的な派手顔の、コケティッシュな美人に成長した。



「ご用件はなんでしょうか?」

「おっ。話が早いわね。ていうか、久々の友からの電話に、それはなくない?もうちょっとフレンドリーに話せないわけ?」

「何の用?私、まだ眠いんだけど。」

「はいはい。じゃあ本題に入るけど、アンタ、彼氏出来た?まだフリーだよね?」

「知ってるでしょ?もう3年ほどフリーです。」

「じゃあさ、私の代わりに婚活パーティに参加してみない?」

「は?婚活パーティ?」

「うん。知り合いが婚活パーティを主催する会社に勤めているんだけど、来週の日曜日に行う予定の婚活パーティの人数が足りないらしくって、参加出来そうな人いないかなって頼まれちゃったんだよね。どう?興味ない?」

「・・・・・・ない。昨夜、私は一生独身でいようと決意したばかりだから。」

そう誓って昨夜は、発泡酒と白ワインをしこたま飲んだから、今朝は二日酔いで頭が痛い。

「なに、イケメン課長にフラれたの?」

「うるさいなあ。ほっといてよ。」

これ以上、私の心の傷口を広げないで欲しい。

「ちさにピッタリな婚活パーティなんだけどなあ。」

「ピッタリ?」

「なんと!猫好き限定のねこんかつパーティ!」

「ねこんかつ?」

「そう。猫好きな男女が猫カフェで婚活するわけ。そこにいる猫達の写真を撮り合ったり、お互いが飼っている猫の話をしたり、楽しいらしいよ?ちさ、猫好きでしょ?」

なるほど。猫と婚活を合わせてねこんかつ、か。

「うーん。猫は好きだけど・・・。」

正直、気が乗らない。

猫を介在するとはいえ、男を物色するパーティなんて、今はまだ行く元気がない。

どうせ私なんて、ロクな男と出会えるわけがないんだから。

「今回はパスさせてください。」

「そんなこと言わずにさ!彼も困っているんだよね。」

「彼?」

「うん。合コンで知り合ったんだけど、いまその彼とイイ感じなの。ここでポイント稼いでおきたいじゃん。」

はーん。今真紀が狙っているのは、婚活会社勤務のその彼ってことか。

だから自分は参加出来ないわけね。

「それにね。そのねこんかつの参加者全員に、キャットフードがたんまりお土産に貰えるらしいよ?」

んん?キャットフードのお土産・・・だと?

「それってちゃ〇チュール?」

「いや、そこまでは知らないけど。」

「・・・・・・。」

「別に婚活目当てじゃなくても、猫好きな人達と猫の話を楽しくする、っていうスタンスで行けばいいんじゃない?それでお土産も貰えるなんてさ。ちなみに参加料金は無料でいいって。」

「でもそれって真剣に婚活しに来ている人に失礼なのでは?」

「軽い気持ちで参加している人だってけっこう多いと思うよ?どうせ休みの日も家でゴロゴロしているだけなんでしょ?気晴らしに参加してみなよ。」