むふむふ

 涼音はしゃがんだついでに無風を見つけた。

「あら、この子は?」
「むふ」
「潔さんのペット……犬かしら? 触ってみてもいい?」
「無風君さえ良ければ」
「むふうくんっていうのね。いいお名前」

 無風は涼音の腕にすっぽりとおさまったはいいが、すぐにこれはいけないと思った。涼音の大きな胸が、思いっきり目の前にあった。

「むふ、むふ!」
「わ、元気な子ね」

 涼音は無風の体をあちこち撫で回す。

「むふ!むふ!」

 無風は必死だった。潔さん誤解しないでくださいこれは違うんです──と訴えるのに必死だったが、潔は何も気づかず「可愛がってもらえて良かったな」みたいな感じを出しているし、無風の声が聞こえる師匠は大あくびをしていて全くこっちを見ていない。

「むふ──」

 その時。

「あら? ちょっと、なんか重っ──」

 最悪のタイミングだった。
 無風は黒タイツの男に姿を変えていた。
 涼音の胸に思い切り顔を埋めた状態で。

「むふ?」と、まだ人の言葉を取り戻せていない無風。
「あっ」やべ、という顔の潔。
「あら」と、欠伸の引っ込んだ師匠。
「いっ」

イヤァァァァ───。
涼音の絶叫が、河原の草花を揺らした。