むふむふ

 なんでも、ある冬の日に神社の階段に座って震えていた師匠を涼音が匿ったそうだ。
 師匠には記憶がない。
 自分が誰でどこから来たのかも分からないという。
 ただ、めっぽう喧嘩が強く、近所の子供に稽古をつけてやっていたことからいつしか師匠のあだ名がついていた。
 潔も弟子の一人であり、師匠曰く、「オレが見た中で一番強い」らしい。
 といっても、師匠ははっきり言って文藏と肩を並べるほど胡散臭いので、全て嘘かも知れなかった。ただヒモになりたかっただけなんじゃないのか、と潔はかなり前から疑っている。

「チキンを買って来いって言うから買って帰ってみれば、いきなり消えているんだもの……もう、心配かけないでくださいな」
「んあ」

 師匠はお茶で口の中の油を流すのに夢中で涼音の話など聞いてはいない。
 そんな師匠を、涼音は潤んだ瞳で見つめていたが、やがて頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「ああもうっ! 可愛い! 好き! めちゃくちゃにしたい!」
「どこがだ、どこが」

 潔は冷ややかな目で見つめたが、人にはさまざまな趣味があるのだから仕方がない。誰がどんなにそんな男はやめておけと言おうが、涼音は絶対に師匠を追い出そうとしないのだ。そんなわけで、涼音の薄幸そうな印象は、年々濃くなるばかりである。