むふむふ

 その一言に、無風はいきなり現実に引き戻される。

「どどどどうしたんですか急に」
「よくあるだろう。口付けで呪いを解く的な……。文藏はあの通り頼りにならんし、試すだけ試してみようかと」

 無風は文藏が慌てて隠した卑猥な和綴の本を思い出す。ちらりと見えた表紙の、獣と女が抱き合う春画を。
 心臓の高鳴りを感じながら、無風は深呼吸した。

「……試すにしても、それは最終手段にしませんか」

 したいかしたくないかで言ったらめちゃくちゃしたいが、今の潔は強すぎる正義感が故にキレて自分でも訳が分からなくなっているだけで、冷静になったら好きでもない相手とそんなことをしたことを後悔するに決まっている。それはあまりに忍びない。いや、したいかしたくないかで言ったらめちゃくちゃしたいが──と、無風は悶々と考える。
 潔は少し考える素振りをした。

「そうか。なら他のことを考えよう」

 あっさり引き下がって、再び歩き始める。
 無風は動揺しながらもちょっと残念というか、残念とか思ったらいけないんだと思いながら歩いているうちに、いつの間にかしゅうんと縮んで毛玉の姿になっていた。