むふむふ

「婚約者だ」
「……へえ」

 潔の表情は真剣そのもので、店主はいよいよ困惑した。通報とかしなくて大丈夫なんだろうか。何せ全身タイツだし。
 一方無風は人前で堂々と婚約者と紹介されたことに照れてもじもじしていた。通報を検討されていることも知らず。
 自転車の小学生がこちらを見て、「あー!なんか変なのいるー!」と叫んだ。

「誰が変なのだ。脇見運転するな!」

 潔は小学生に叫び返した。

「……潔ちゃん。なんか困ってたら相談してね」

 阿部丘書店には、『こども110番の家 何かあったらすぐ飛び込んでおいで!』のステッカーが黄色く輝いている。
 突然そんなことを言われた潔はわけもわからず「ああ、ありがとう」と返事して、店主と別れた。

「失礼な小学生もいたものだ。無風君、気にしないでくれ。無風君?」
「あっはい」

 無風はまだぼんやりしていて、失礼な小学生のことなど全くなんとも思っていなかった。
 ふと、潔が立ち止まる。

「無風君。物は試しだ。一度、口付けでもしてみるか」