むふむふ

 綺麗なのに、面白くなっちゃっている。
 いや、綺麗だからこそ面白いのかも知れない。
 あまりの面白さに、潔は真顔で口にした。

「面白い男だな、君は」
「面白いですか……」

 面白い。
 無風は大いに落胆した。
 人生の登場人物として完全に忘れ去られている時点でマイナスからのスタートなのに、トンチキな存在として再認識されてしまった。ここから男として見てもらうことは可能なのか。
 無風がそんないじけた思いを抱くなか、潔は居間に飾られた額を見つめていた。
『約束守るべし』──祖父、正が神矢家の家訓として掲げた書である。なんでその字で家訓を書く気になったんですか? 恥ずかしくないんですか? レベルの悪筆である。悪筆なだけでなく、神矢家にとってそれは家訓というより呪いであった。
 同じ甕の蛇焼酎を使ったら最後、全員この家訓に巻き込まれる。
 大元はいつ誰が始めたことか知らないが、家訓を破ると大変なことが起こるとかなんとかで、潔は幼い頃から散々脅されてきた。
 だから、約束というなら疑問を差し挟む余地はない。
 額を見つめながら、潔は言った。

「無風君」
「はい」
「私は見ての通り面白みの無い女で申し訳ないが、どうせ結婚しかなさそうだ。妻になった暁にはできる限りのことをする」

 なんだかよくわからないが自分はこの新たな約束を守って生きていくことになるらしい。
 焼酎に沈む蛇のように、潔は事態を丸呑みにかかる。
 しかし、無風は少し違った。