「俺は知世を一人の女の子として見てたんだよ、気が付けば」
彼の困ったように笑った。
え、何て言ったの?
一人の女の子としてみてた?その意味は?
彼の照れが含まれたような笑顔と言われた内容に、私の頭と心が追いつかない。
それは彼の勘違いじゃないのだろうか、ずっと手伝ったから、そういう事ではと必死に言い聞かせてしまう。
「だから観覧車での告白は俺にとってダメ押しの一撃だったよ。
千世を心配していたくせに、知世と彼氏彼女のような事がせめてしたいって思うようになってて、そんな自分勝手な気持ちが自分で許せなかった。
なのに結局、演技指導とか格好つけて遊園地誘ったりしてしまったんだ。
もちろん誘った以上はしっかり指導しようと思っていたからな?それは疑わないでくれ」
軽く、とても軽く話しているのは彼自身の罪悪感を消したいのか、恥ずかしさを誤魔化しているのか。
でも、鹿島さんがそんな風に私のことを見ていただなんて。
本当なのだろうか、そういう意味にとって良いのだろうか。
「そんな素振り、何も感じませんでした」
「そりゃ自覚しそうなのを押し込めていたし、そもそも自覚が遅かったし」
難しいんだよ、そういう気持ちってのはさ、と恥ずかしさを誤魔化すように語気を強めていて、思わず私は吹きだした。
「そして今言うのは卑怯かも知れないけど、恐らく俺は小さい頃の知世に会ったことがあるんだ」
え?!と声を出し、鹿島さんは苦笑いする。
「以前俺たちのいた街に知世も小さい頃住んでたって言ったよな。
俺が中学入った頃くらいに、公園の遊具の中で一人泣いてる子を見つけたんだ。
どうも小学校に入学したばかりなのに友達が出来ないって泣いてて。
なかなか泣き止まないから俺が友達になるって言った。
信じないその子と指切りしてさ、約束したんだ友達でいようって。
その子の名前は、柏木知世だった」
私は呆然としたまま聞いていた。
そんなの、記憶に無かったからだ。
「ほんの時々、会ってその子の言いたいことを聞くだけだったけど、男子が苛めるって泣いてるから、それは好きだからそういうことするんだって話したこともある。
母親がはまってるドラマの俳優の真似をしてやったこともあった。
そしたら知世が言うんだよ、役者さんになればってそれはまた可愛い笑顔でね。
その時は受け流しただけだけど、気まぐれに受けたオーディションで落ちたのにモデルの話が来た。
それからだよ、モデルの仕事してたのは。
どうしてかな、死んだせいなのか記憶が無い部分があるらしい。
本人は忘れているという認識無いから、気づくはずも無いんだけど。
そして知世のリビングに飾ってあった子供の頃の写真見て思い出したんだ。
あぁあの時の子なんだって。
あの頃はある時から見かけなくなって心配してた。
そうか、引っ越したから来なくなったのか」
「なんで、そんな大切な事、早く言わなかったんですか」
「だから知世と会ってだいぶ経ってからだったんだ。
その頃には知世への気持ちを自覚してたけど、自分自身へ言い訳するのに必死でさ。
もしかしたらこの記憶のせいで勘違いしてるのかも、とか思ってたから言い出せなかった」
私はその話を聞いてようやくぼんやり思い出した。
小さい頃は本当に泣き虫だった。
そんな私を泣かないように慰めてくれた人がいた。
引っ越して会えなくなって私はもの凄く悲しかった。
だけどその人と友達になろうと約束したから、泣かないで学校でも頑張ろうと思ったし今の私がある。



