流石に途中独り言を言って回るのはまずい。
台本は頭に叩き込んできた。
似たような場面で、こっそり練習するしか無い。
ドラマの流れは、まず遊園地の入り口にて四人で待ち合わせ。
私と彼はぎこちない挨拶をかわし、中に入って私と彼を二人だけにしようというあからさまな態度に苦笑いしつつ遊園地を四人で遊ぶ。
二人をくっつけたい主人公の妹に、無理矢理お目当ての彼と観覧車に押し込められる。
そして主人公の妹達は、後はあの二人だけにしようと遊園地を歩いていたら殺人事件に出くわすのだ。
だから私が最後に映るのは観覧車のところまで。
それをなぞるようにこそこそと演技というか確認を鹿島さんとしていった。
悔しいことに鹿島さんは見事に台詞を覚えていた。
それもここで出演する私の役含めた四名全ての台詞を。
そして初っぱなからダメ出しの嵐。
私が主人公の妹に遠慮しすぎているとか、ここは罠にはまってもその気遣いを嬉しく思う表情をしろとか、好きな男と隣に座ることになってそんなに距離感が近いわけないだろ、とか。
それはガミガミと注意されるのだが、熱心さと楽しそうにするその表情を見て、彼自身やはり演技することがどれだけ好きだったのかが伝わってくる。
だからこそ今回付き合わせることは、彼にとって良いことなのか悪いことなのかは判断できなかった。
しばらくそういう時間が続き、小さな休憩を挟みつつもあっという間に数時間が経っていた。
「休憩するぞ。
飲み物でも買ってきてやりたいがそうも出来ないからな、自分で行ってこい」
「普通彼がそういう気遣いしてくれてキュンとするってのが定番なんですが」
「幽霊にハードル高いこと要求するなよ」
特に傷ついた様子も無く笑う彼に、そこのベンチで待ってて下さいと言って自販機でアイスレモンティーのペットボトルを買ってきた。
彼のすぐ横に座り、ペットボトルの蓋を開ける。
冷たさが手に伝わってきて気持ちが良い。
独り言とはいえ何度もしゃべっていたせいか思ったより喉が渇いていて、半分以上も気がつけば飲み干してしまった。
私達の前を楽しげな子供達や女子のグループ、もちろんカップルも通る。
お揃いのグッズを下げているカップルを見て、羨ましいと思った。
本当に好きな人とならきっと同じものを一緒に持ちたい。
こんな感情を抱いたのは初めてだ。
けど隣に座って前を向いている鹿島さんの服装は出会った時のまま。
季節が変わっても同じ。
一緒にお揃いのグッズなんてもの、幽霊と持てるわけなんかない。
「後は観覧車のシーンだな」
ぽつりと言った彼に、そうですね、と返す。
「どういうカメラアングルになるかはわからないが、二人だけにされてしまった困惑、そして恥じらいと隠せない嬉しさ、そんなとこだろうな」
「夕暮れの観覧車なんて最高のお膳立てですからね。
どっちかが告白した、なんてあるんでしょうか」
私だって役作りをする以上そこまで考えていたい。
それによりそこに入るときの表情だって違うはずだ。
「どうだろうなぁ。
こういう場合なら勢いってのが多いんじゃ無いか?
雰囲気に流されたとか、結局勇気が無くて楽しかったですね、と締めくくるか」
鹿島さんの意見にそういうものかもしれないですね、と賛同する。
私なら。
もしかしたら鹿島さんと最後のデート、というか二人の時間になるなら。
好きな人はこの世に残るほど好きな人がいて、未だにその気持ちを消化出来ずに私の側にいる。
やはりそんな相手に告白するなんて事はただの自己満足じゃ無いだろうか。
どうせ伝えたって実ることの無い恋なのだから。
何度そうやって自分で考えただろう。
そう自分に言い聞かせる度に、私の気持ちは沈んでしまっていた。



