地味子なのに突然聖女にされたら、闇堕ち中の王子様が迎えにきました

 
 翌朝、グレンの1人だけすっきりした顔に、ジゼルはただただ目を細めて憎らしそうに見つめるだけだった。


 あのあと解放されたのは明け方、太陽が上がり始めていた頃。いや気を失ったのがその位で、正確にはいつこの性欲モンスターから解放されたのかは分からない。
 もしかしたら気を失った後も構わず、抱き潰されていたかも。

 体の節々が痛い、腰も手も、どこもかしこも痛い。喉も喘がされ続けてガラガラに潰れてる。
 目もヒリヒリするし、おそらく泣き過ぎて真っ赤になっているだろう。


 そんな疲労困憊なジゼルと打って変わって、まるで憑き物が取れたかのように清々しいグレン。

 普段、長男という立場から色々我慢していることが多いからか、自分にだけは荒々しい素を見せることがある。
 そして昨夜みたいに時々感情を爆発させる。

 それが嬉しくもあったり……、さっぱりシャワーを浴びてきたグレンを見て、やっぱり前言撤回。

 ふざけんな加減しろよ、と怨念を込めてジゼルはグレンを睨みつけた。


「ジゼル、大丈夫か?」

「大丈夫そうに見える?」

「うわ、ひどい声だな」

「言っとくけど、お前のせいだからな」


 そんなまるで病人のようなジゼルに、グレンは廊下へ出ると通りすがりのメイドに声をかけた。

 
「悪いけど水をもらえないか。そこに朝採れたレモンの汁を少し絞って。あと2人分の軽食も」

「か、かしこまり、ました」

 バスローブのまま濡れた髪のグレン。分かりやすい程に狼狽える若いメイドに、鈍感極まるグレンはもちろん気にもとめない。

 ずっと不機嫌で怒っているジゼルに、やれやれとため息混じりに

「昨日は悪かったよ。そんなに怒るなって」

 と、謝るが、ジゼルの方は唇を尖らせたまま。

「なんで昨日、そんなに余裕なかったの?」

「どっかの誰かが、俺の気も知らないで死に急ぐようなことを言うから」

「べつに死に急いでない、あなたのためならこんな命惜しまないってだけじゃない」

「俺は簡単に失いたくないんだよ。何よりも失いたくなくて、誰よりも守りたいのが、ジゼル。お前なんだよ」

 でも、と言いかけた唇を塞ぐグレン。その先はもう聞き飽きた。

「君がいなくなる位だったら、その羽をもいででも鳥籠に閉じ込めてやる」

 唇を離し、至近距離で見つめられ低い声で脅され、ジゼルはぞくっと思わず身の毛がよだつ。

「怖いこと、言わないで」

「さぁ、今日も任務に行ってくるか」

「はぁ?今日休みじゃないの?」

「な訳あるか。今日はジャンガルガの親を探さなきゃいけない」

 思わず空いた口が塞がらない。

 それ野外遠征ってことじゃない、運良く2日3日で帰って来れれば良いけど、最悪場所によっては1週間、2週間かかる可能性だって。
 モンスターと戦う可能性もあるし、一体どんな体力してんのよ。

 とても、私もついて行く!なんて言えない今の自分の状況に、ジゼルはピンときた。

「なるほど、羽をもぐって、こういうことね」

「そんな生易しいもんじゃない。さっき、最中に言われたことを忘れたのか?」

「?」

「ジゼルがいつまでもうんと頷かないなら、俺は本気でやるよ。お前を縛って閉じ込めてでも、目的を果たすまで」


 きっと意味が分からなくて、怯えたような目をしたジゼルの頭にポンと手をのせるグレン。


「今日は大人しく寝ていなさい」