「夕日、見てから帰る?」 「…そうだね」 伊吹くんの「帰る」って言葉が現実を知らせる。 「このまま日が沈まなきゃいいのに」 「え?」 心に思っていたことがつい、口から出てしまっていた。 「なーんちゃって。彼女みたいなこと言ってみた」 「今のはずるいよ…」 そう言いながら伊吹くんは腕に顔を埋めた。 「ずるいって…」 「新奈といると、帰りたくなくなる。帰したくなくなる」 伊吹くんは、そうやってすぐに私の心を奪っていく。 「ずるいのはどっちよ…」 そんなの、私は最初っからずっと思ってたよ。