フンフンフフーン♪

僕は社用車を運転しながら
車のスピーカーから流れる音楽を
上機嫌で口ずさんでいた。

なぜ上機嫌かというと
言わずもがな
数日前の羽菜ちゃんとの出来事だ。

僕の機嫌は9割方、
羽菜ちゃんで左右されてしまう。

羽菜ちゃんが抱きしめ返してくれた時の
あの肌から伝わる柔らかい感触が
数日経った今でも僕の胸を締め付けてやまないのだ。


早く仕事を終わらせて羽菜ちゃんに会いたい。
あわよくば、今日もハグのお許しが出るかもしれない。

思わずアクセルを踏む足に力が入る。


「おいおい、櫻介スピード出し過ぎじゃないか」

後部座席から同僚の八嶋斗真《やしまとうま》が身を乗り出した。

斗真は幼稚園時代から腐れ縁で
大学の友人の中で一人だけ就職先が
見つからず嘆いていたのを
僕の親父が可哀想に思って
拾ってやったというわけだ。

斗真は昔から勉強が苦手で
単純な性格ではあったが
目上の人に可愛がられてちゃっかりと
取り入るのは上手いのだ。