「それじゃあ駄目なんだよ」

「なんで?」

「羽菜ちゃんが悲しいときに
涙を見せれる相手が僕だけであってほしいんだ。その為にもっと大人の男になりたい」

私は困った表情をうかべた。

そして、少し考えたあと優しい口調で語りだした。

「櫻ちゃんがそう言ってくれるのは
とても嬉しいの。でもね...
櫻ちゃんは私が一番悲しいとき
ずっとそばにいてくれたわ。
そばにいていつも笑顔にさせてくれた。
私はそれだけで十分よ。
だから、今度私が悲しいときは
これからもずっとそばにいてね」


「羽菜ちゃん、
なんだかそれ愛の告白みたいだよ?」


「そうかしら?」


私ははぐらかすように首をかしげた。


「うん。
まあでも愛の告白じゃなくても嬉しいよ。
これからは羽菜ちゃんが悲しくなる暇が
ないくらい我が儘にならなくちゃね。」


「程々にお願いします」


「ねえ?羽菜ちゃん?
抱き締めるのはだめ?」



「まあ、それくらいならいいかな?」


「えっ!いいの!!」

櫻ちゃんは私の予想だにしなかった答えに
嬉しそうに両手を広げた。

私は照れながらも櫻ちゃんの胸に
そっと頬を寄せる。

櫻ちゃんはまるで宝物を扱うように
優しく抱き締める。

「ずっと羽菜ちゃんのそばにいるからね」

櫻ちゃんが私の耳元でそっと囁いた。

私はキュッと胸が疼いて
思わず「うん」と櫻ちゃんの背中に両腕を回した。

そして私達はお互いの存在を
感謝し合うように長い時間抱き締め合った。