年下御曹司の箱入り家政婦

「あれっ?もう終わり?
俺としてはもっとこの話をしたいところ
なんだけどな」

新さんはつまらなそうに呟きながら
お皿の中のグラタンをフォークで突っついている。

「話すことはもうありません!
どうせ私が何を言っても諦めてはくれないんですよね?」

「まあそうだな。
それじゃあ今日はこれくらいにして
明日からゆっくりとアプローチしていくよ。
いやっ、ゆっくりもしてられないか。
もたもたしてたらあいつに持っていかれてしまう」

そう言って、新さんは椅子から立ち上がると、食べ終えて空になった食器を片付け始めた。

「あいつ...?」

あいつとはやっぱり櫻ちゃんのことを指しているのだろうか?

そういえば櫻ちゃんもなぜか新さんのことを意識しているようだし。

二人ってそんな接触する機会あったっけ?

私が考えながら難しい顔をしている。

新さんはぼうーっとしたままの羽菜を見て
フッと笑みを浮かべた。

「ほら、早く食って練習の続きやるぞ!」

新さんは私の頭をポンポンっと軽く叩いた。

私の胸がドキりと脈打つ。

今までいくら新さんに頭を撫でられても
なんとも感じたことなかったのに!

なんか嫌だ(泣)

私は変に意識してしまっている
自分に焦りを覚えて
「うわぁー」
と、思わず触られた頭をクシャクシャっとかいた。

「大丈夫か?」

新さんはビックリした表情で私の乱れた髪を優しい手付きで直してくれている。

「だ、大丈夫ですから!
片付けて練習の続きやりましょう!!」

私は新さんの手を振りほどくと
空の食器を手に流しへと逃げだした。

そして、流しに食器を置くと
疲れたぁ~と心の中で呟きながら
ガクッと項垂れた。

しかし、いくら逃げ出したくても
否が応でもパンケーキ作りを再開される。

新さんは指導中は至って真面目で
アプローチしてくるようなことはない。

問題は私の方だ。

今朝までは平気だった距離感も
急に近く感じられて意識してしまうのだ


たまたま指導中に手が触れてしまう場面で
びっくりした私はボウルを派手にひっくり返してしまった。

焦って床に転がったボウルを片付けていると新さんににやりと笑われてしまい、
意識しているのがバレバレで恥ずかしくて泣きそうになる。

そんなこんなで結局
焼く工程まで進むことは
出来なかったし(涙)

仕事を終えるころには精神的に
クタクタになっていた。

帰りに新さんに食事に誘われたのだが
なんとかそれをかわして逃げるように
家路についた。