年下御曹司の箱入り家政婦

「ハハッ。夢野はそんなに困ってるのか。
それは良かった。」

新さんは愉快そうに笑った。

私はその態度に訝しげに眉を潜めた。

「何が良いんですか?
私は全然よくないですよ」

さきほどきっぱりと振られた人の態度とは到底思えない...
本当に私のことが好きなのかさえ疑ってしまう。

「全く意識してもらえないより
困らせてでも少しでも意識してもらえるほうがいい。
困って困って俺のことで頭がいっぱいになればいい」

そう言いながら悪戯に微笑む新さんに
私は打ちのめされたように肩を落とす。


「新さんの選択肢に諦めて身を引くという辞書はないのでしょうか?」


私はおずおずと確認する。

「ない!」

新さんはすがすがしいほどにきっぱりと言い切った。


なぜ櫻ちゃんといい、新さんといい、
私の周りには諦めの悪い人が多いのだろう。

普通は告白をして相手の答えがノーならば
黙って身を引くのが世の常ではないのか...?

「それでなくても櫻ちゃんのことだけでも
いっぱいいっぱいなのに...」

私は小さく呟くと弱々しく息を吐いた。