年下御曹司の箱入り家政婦

新さんがオーブンを開けると
厨房にチーズの香ばしい香りが広がった。

「いい匂い…
今気付きましたけど、
私、めちゃくちゃお腹が空いていてます。」

美味しそうな香りに
否が応でも顔が緩んでしまう。
新さんはそれを横目に目を細めながら
焼きあがったグラタン皿をテーブルに並べている。

「俺だってお腹空いて
さっきからグルグル鳴りっぱなしだ。
もうとっくに13時まわってるんだからな。
でも夢野があまりにも真剣だから俺も
言うに言えなかったよ。」

「新さん、そんな遠慮するタイプじゃないじゃないですか!」

「失礼なやつだな!
俺はちゃんと空気は読むんだ。
空気読まないのは関くらいだ。」

「ふはっ。関さんに失礼ですよ」

私が笑いながら、席に着くと
新さんは「やっと笑ったな」と
優しい声色で呟きながら向かいの席に
腰を下ろした。

新さんが冗談を言うなんて
よっぽど辛気臭い顔してたのかしら…


「こんなことくらいでは
私はへこたれませんから!!
いただきまーす!!」

私は熱々のマカロニをフォークで刺すとフゥーフゥーと息を吹きかけた。
そして大きな口を開けてグラタンを頬張ると
あまりの美味しさに目尻を下げた。


新さんは頬杖をついて少しの間
こちらをジッと眺めながめていたが
「ハハッ。大きな口っ(笑)
さっきまで、この世の終わりのような顔してたくせに」
そう言って急に楽し気に噴き出した。

大きな口って...(恥)

「新さん笑いすぎです!
そんなこの世の終わりなんて顔してないですよ。
そりゃあ…焼く段階までいけなかったことは悔しいですけど…」