年下御曹司の箱入り家政婦

バタンと閉まったドアを見つめながら
僕はポスッと布団の上に体を沈めた。

思ったより小さかったな...

右手を高くかかげて掌を見つめると
先ほどまで抱きしめていた
彼女の華奢な体の感触を思い出した

僕の腕の中からすり抜けていった
羽菜ちゃんはまるで羽根が生えているんじゃないかと思うくらい天使のように愛らしい

初めて会ったのは僕が中学の頃で
羽菜ちゃんは高校生。

親から羽菜ちゃんを紹介されたときは
可愛い子と同居出来てラッキーくらいにしか思わなかった。

しかし、僕のお気楽な思いとは違ってきっと彼女は肩身の狭い思いをしていたのだろう。

それから高校を卒業した羽菜ちゃんは大学に通いながら、朝は早く起きて愚痴ひとつ言わず家事を完璧にこなしていた。

いつも笑顔で明るい彼女の心のうちを
僕は知るよしもなかった。


あの日までは...


羽菜ちゃんが来て半年ほど経ったある日、
夜中に喉のかわきで目が覚めた僕は
部屋を出るとキッチンへと向かった。

階段を降りて羽菜ちゃんの部屋に
差し掛かったとき
少しだけ部屋のドアが開いていた。

起こしたらまずいと思い、そっと音をたてないように通りすぎようとしたとき、
しくしくと羽菜ちゃんのすすり泣く声が
聞こえたのだ。
僕はギョッとして思わず
ドアの隙間から部屋を覗きこんだ。

羽菜ちゃんはベッドに突っ伏して
声を潜めて泣いていた。

時折「お父さん...お母さん...」と苦しげに
声を震わせながら..

僕はドアノブに手をかけ、声をかけようか
逡巡してそっと部屋を後にした。

そして後悔した。

この半年間、羽菜ちゃんの寂しさに気付いてあげられなかった自分に。
何もしてあげられなかった自分に···──。

きっと羽菜ちゃんは明日から何事もなかったかのように笑顔で生活するのだろう。
そして、誰もいないところで1人家族をなくした孤独と戦うのだ。