年下御曹司の箱入り家政婦

「羽菜ちゃん!
ちょうどエレベーターきたよ!」

目の前のエレベーターの扉が開いて
降りる人を見送ると櫻ちゃんが先に乗り込んだ。


「う、うん...!」


私は少し躊躇しながらも
櫻ちゃんの後に続いてエレベーターに乗り込む。

櫻ちゃんは私が乗り込んだのを確認してから、高層階の階数ボタンを押した。

エレベーターがふわりと上昇し始めると
私はこちらに背を向けて立つ
櫻ちゃんを見上げた。

櫻ちゃん、本当に大きくなったな...

初めて出会った頃は私と5センチほどしか
変わらなかった背丈はすでに
見上げれば首が痛くなるほど
差が開いてしまっている。

毎日見てるとその成長に気づかないのだけどこうして狭い空間で改めてみると、その成長に驚かされる。

私なんて高校時代から1センチほどしか伸びてないのに...

私がまじまじと眺めていると
急に櫻ちゃんが後ろを振り返り
見上げている私とバチっと目があった。

私はドキッと肩を震わせると
思わず目線を下に落とした。

櫻ちゃんが何か冷やかしてくるかと思っていたが、予想に反して何も反応が返ってこない。

私は顔を上げて
階数ボタンの前に立つ櫻ちゃんの
横顔をそっと覗きこんだ。

櫻ちゃんは無言で階数の表示灯が階を刻むのをじっと見つめたままだった。

いつもはお喋りのくせに
櫻ちゃんが喋んないと余計緊張するじゃない...

何か話さなくてはと思うのに
結局言葉が見つからず
ぎこちない沈黙がエレベーター内に流れる。

そうこうしている間にエレベーターが
止まり扉が開くと、無言のまま二人は降りた。

上質な絨緞がひかれた廊下のさきに
櫻ちゃんの予約した部屋があった。

部屋の前までいくと
櫻ちゃんがカードキーをドアに差し込んで
ドアノブを引くが扉は開かない。

「櫻ちゃん、それカード裏返しじゃない...?」

「おわっ、ほんとだ。」

櫻ちゃんは私の指摘に慌ててカードを
差し直した。

櫻ちゃん、緊張しているのかな...?
と悟って可笑しさが込み上げてくるが、
グッと唇を噛み締めて笑いを我慢する。


そして、櫻ちゃんがドアを開けると
シックなインテリアで施された
広々としたゆとりのあるリビングルームが
目の前に広がっていた。

私は思わず「わぁー」と感嘆の声を上げる。

「さすが、一泊20万円の部屋よね!
櫻ちゃん見て見て!
ドリンクバーまであるよ!!」


「ほんとだ!
羽菜ちゃん、お菓子も果物もある♪」


部屋を物色する二人は
高級チョコレートを見つけて
早速、口に放り込むと「うっま~」「美味し~」と同時に顔をほころばせた。

先ほどまで二人の間に
張りつめていた緊張は
当に吹き飛んでいた。