年下御曹司の箱入り家政婦

しかし、フツフツと沸き立つ僕の怒りは
「あれっ?櫻ちゃん...?」
羽菜ちゃんの可愛い声で一瞬で吹き飛ばされてしまう。

子どものように目を擦る羽菜ちゃんは
今の僕達の膠着状態など全く気づいてないのだろう。

僕はすぐさま羽菜ちゃんの手を引いて
ヤツの背中から下ろさせる。

フフンと勝ち誇った笑みを男に
向けると、今まで大人の余裕を見せていた
男の表情がムスッと一瞬崩れる。


僕は羽菜ちゃんに背を向けてしゃがみこむと
酔っていつになく素直な羽菜ちゃんは「は~い」と可愛く返事をして僕の背中に身を預けた。


やっと自分の手元に戻ってきた羽菜ちゃんに僕はホッと安堵の溜め息をついた。

ところが、羽菜ちゃんをおんぶしてみて
こんなにもヤツに密着していたのかと
今度はモヤモヤが胸を覆い尽くす。

そして、眠いと言って僕の首もとに顔を擦り付ける羽菜ちゃんは酔うと甘えん坊になって可愛いすぎる。

普段、しっかりものキャラだから
そのギャップに男ならノックアウトしてしまうだろう。

だから、羽菜ちゃんが大学時代で飲み会となると気が気ではなかった。

当然、家でじっと帰りを待つなんてできなくて結局店まで迎えに行ってしまうのだ。


早くこの男のそばから立ち去りたいが
最後に一応、大人の男として
挨拶しておくか...

「あとはちゃんと俺が部屋まで送るので
羽菜ちゃんの職場の方は帰っていただいても大丈夫ですよ。それでは失礼します」

敢えて職場の方を強調して。

僕はくるっとマンションの方に体を向けると
急ぎ足で歩き出した。

きっとあの男も僕のことを羽菜ちゃんの彼氏だと勘違いして諦めるはずだ。
羽菜ちゃんの大学時代もこうやって周りの男どもを羽菜ちゃんから遠ざけてきたのだ。
いくら可愛くても男持ちの女の子に手を出そうなんて男はなかなかいない。

お願いだから、羽菜ちゃんだけは諦めてほしい...

だが、僕の思いとは裏腹に

夢島!!───

後ろから男の叫ぶ声が聞こえた。

僕はピタリと足を止める。

明日からパンケーキの作り方教えるから遅れるなよ!!─────

男はまるで僕なんて
見えていないかのように羽菜ちゃんだけを
見つめて叫ぶ。

パンケーキってなんだよ?

作り方がなんだってんだよ?

僕には男が叫んでまで
何が言いたいのか分からない。

しかし、本当ですかー!!と
僕の背中ではしゃぎ出した羽菜ちゃんと
その姿をみて頬笑む男にとてつもない疎外感を覚える。