年下御曹司の箱入り家政婦

それから羽菜ちゃんと僕と斗真の三人は
一次会で抜けた。

斗真は僕の家に泊まると
バス乗り場で駄々を捏ねたが
羽菜ちゃんの見えないところで
お尻に蹴りを入れてバスに押し込んだ。

これで邪魔者は全て消えたと
羽菜ちゃんと二人きり
夜の道を歩いて帰る。


僕は真ん丸に輝く月を眺めながら
「羽菜ちゃん、月が綺麗ですね」
と夏目漱石の告白を真似てみた。

しかし、やはり羽菜ちゃんは
全く気づくことなく
キラキラした瞳で夜空を見上げながら
「そうね」と呟いた。

僕の胸にキュッと痛みが走った。

それは心地よい恋する痛み。

家がもっと遠ければ良いのに
と思いながら、少しでも同じ時間を
共有したくて自然と歩調が遅くなる。


「ねえ?櫻ちゃん?」

「ん?」

「斗真くんっていい子ね」

羽菜ちゃんが急に別の男を誉めるので
僕は「そうかなぁ?」と不機嫌に顔を歪めた。

「そうよ。
私、櫻ちゃんの学校のお友達とか見たことなかったから、今日は会えてよかったわ。
櫻ちゃんに良い友達がいて安心した。」

羽菜ちゃんはにこりと優しい笑みを浮かべた。

「まあ、斗真とは幼稚園からの腐れ縁だし
単純だけどいい奴だよ。」

僕は嬉しくて歩きながら
幸せを噛み締める。

「これからも櫻ちゃんに素敵な出逢いが
ありますように」

羽菜ちゃんは月に向かって願う。

羽菜ちゃんの優しさは僕の嫉妬でささくれた心を一瞬で浄化してしまう。

僕は羽菜ちゃんに出逢ったことが
人生で一番、最高で素敵な出逢いなんだよ?

もうこれ以上の出逢いは望まないので
羽菜ちゃんにこの想いが通じますように...


僕は月明かりに照らされた道を
羽菜ちゃんと歩きながら、そう願った。

END