櫻ちゃんは私の横で
墓石の前にひざまずくと
線香を灯してから
真剣な表情で口を開いた。

「おじさん、おばさんご無沙汰してます。
天草櫻介です。
実は今、羽菜さんとお付き合いさせてもらっています。」


「えっ?そんなことまで報告するの?」

私は動揺してギョッと目を見開いた。

「当たり前だよ。一番大切なことだよ。」

櫻ちゃんは“何を言ってんだ”というように
息を吐くと気を取り直すように
背筋をのばすと再び口を開いた。

「そして今日はおじさんとおばさんに
お話があってきました。」

「何の話?」と私が聞くと「羽菜ちゃんは
黙って隣で聞いてて」と軽くあしらわれた。

「おじさん、おばさん、
僕は今から羽菜さんにプロポーズしようと思っています。
だから、そこで見守っていてくれますか?」

「えっ?プロポーズって..
お、櫻ちゃん、何を言ってるの?」

戸惑う私をよそに
櫻ちゃんはすっと立ち上がると
「何って、今話した通りだよ」
ポケットから小さなケースを取り出して
パカッと私に向けて開いてみせた。

中にはシルバーの指輪が入っていて
ダイヤモンドがキラキラと太陽光に
反射して輝いていた。

「羽菜ちゃん、僕と結婚してください」

私は思いがけないプロポーズに
暫くの間、言葉を失う。

「・・・・・・・

私たち、まだ付き合って3ヶ月よね?」

「まだじゃなくて、もう3ヶ月だよ。
僕はずっと羽菜ちゃんと彼氏彼女じゃなくて家族になりたかった。
なんでだか分かる?」

私はふるふると顔を横に振った。

「羽菜ちゃんが一人部屋で泣いてるのを見たあの日から僕は何があっても羽菜ちゃんを
寂しい思いはさせないって自分の胸に誓ったんだ。
そしていつか大人になったら、羽菜ちゃんに寂しさなんて考える暇がないくらい賑やかな家庭を作りたいってずっと夢見てた。」

櫻ちゃんの真剣な眼差しに
トクトクと心臓が鼓動を鳴らす。