年下御曹司の箱入り家政婦

ガチャーン、ガラガラガラ...

私の手から滑り落ちた銀色のステンレスの鍋が大きな音をたてて厨房の床の上を踊るように転がった。

厨房に突如として響き渡った音に、一瞬ビクッと肩を震わせた新さんが今度は呆れた表情でこちらを見ているのがわかる。

これで本日の私の失態は何回目だろうか...

「すみません!」

私は床に転がった鍋を直ぐ様、拾い上げた。

櫻ちゃんの告白を受けてからというものずっとこの調子だ。
昨日もせっかくの休日が結局何もせずにボーッと一日中過ごしていた。
しかも、昨日の夜、櫻ちゃんからデートのお誘いのメールがきたのだ。
ちゃんと向き合うと約束した手前、断ることは出来ない。
私は悩んだ挙げ句、次の休みの日にデートすることを了承したのだ。
でも、本当にこれで良かったのか未だに自問自答している状況だ。

「はぁ...」

私は無意識に肩で大きく溜め息をついた。

そこに「暗い、うるさい、うざい...」と
新さんが床を掃除用ブラシでこすりながら罵声を浴びせてきた。

今は閉店後の片付け作業で厨房内は私と新さんの二人だけなので、その言葉は私に向けられたものだと容易にわかる。

「暗い、うるさいまでは受け入れますし、
ご迷惑かけて謝りますけど、ウザイはひどいですよ」

私はムッと頬を膨らませた。

「お前が悩んでようが悩んでまいが
どっちでもいいが、
そんな浮かない顔で作った不味い料理を食べさせられる客は迷惑だ」

新さんの言葉にハッと顔を上げた私に
鋭い視線を向ける新さん。

「それは......すみませんでした」


私は頭を下げるときゅっと唇を噛み締めた。

新さんの言い分は最もだ。私は今日仕事中ずっと上の空でお客様に満足のいく料理を提供できたのかと問われれば自信がない。

しょぼくれたままの私に新さんは
フウッと短く息をはくと
「早く片付けろ!飯食いに行くぞ!」
そう言ってブラシを片付け始めた。

「えっ?」

新さんから発せられた予想外の言葉に
私は顔をあげた。

「今日1日迷惑かけられたからお詫びとしてお前のおごりな」

新さんはしれっとした顔で
私の持っている業務用の大鍋を奪い取ると
軽々と棚の上へとしまいこんだ。