年下御曹司の箱入り家政婦

「櫻介、さっきの何なの?
羽菜さんに対して態度悪くない?」

助手席に座る蘭が先ほどの羽菜ちゃんに対する僕の態度に口を出してきた。

「お前にだけは態度がどうとか
説教されたくないんだけど」

僕は誰のせいだと思っているのかと
苛々してあからさまに蘭に当たる。

「まっ、私としてはそれで羽菜さんに
櫻介が嫌われてくれたほうが好都合だわ」

そう言って蘭は鼻で笑う。

羽菜ちゃんに対して“あの女”呼ばわりしなくなって“さん”付けしているということは
敵対視はしていないようだ。
しかし、“嫌われてくれたほうが好都合”ということはまだ僕のことは諦めていないらしい。

「いい加減、僕のことは諦めてほしいんだけど。」

僕はしつこいと言わんばかりに、盛大に溜息を吐いた。

「自惚れないでくれない?
櫻介のことはもう好きでもなんでもないわ」 

髪の毛をいじりながらキッパリと言い切る蘭は僕に全く興味ない様子だ。
こうもあっさり身を引く蘭に僕は一瞬、呆気にとられるが「それは有り難い。」20年分の重荷がおりた感覚にホッと顔を緩ませた。

しかし、ホッとしたのも束の間
次の蘭の言葉で僕は窮地に追い込まれる。

「私、今は羽菜さんが好きなの. . .♪」

蘭はモジモジと恋する乙女のように
顔を赤らめた。

「はあっ?!」

僕は蘭の言動に気を取られて、前の車に追突しそうになり慌てて急ブレーキをかけた。

キキーーーーッ

その反動で前方に体が押し付けられるように傾いた蘭は「危ないじゃない!殺す気?」
と、抗議の目を向ける。

先日、死ぬと叫んでたやつの言動とは思えないほどの変わりようだ。