年下御曹司の箱入り家政婦

「蘭ちゃん、死んだのか?」
 
ソファーで隣に座る斗真が
真っ青な顔で呟いた。

「ばかっ、縁起でもないこというなよ!
ただ気を失ってるだけだよ」

斗真の耳を疑うような言葉に否定しつつも
あの頭からの出血量を目の前にしたあとでは
嫌でも動揺してしまう。

僕達をどんよりと暗い空気が包む。
すると、寝室の扉が開いて羽菜ちゃんが顔を出した。

「着替えさせてたら、蘭さん気がついたわ。入ってきていいわよ」

その言葉を聞いて
僕と斗真はホッと胸をなで下ろした。


寝室へ入るとベッドの中で
頭に包帯を巻いた蘭が
ぼうっと天井を見つめていた。

「蘭、大丈夫か?」


僕は静かに問い掛けた。

蘭は僕に気付いたが
プイッと拗ねたように視線を反らす。

「頭は血管が多いから
少しの傷口でも大量に出血しちゃうの。
意識もハッキリしてるし大丈夫だとは思うけど今日は私のとこに泊まっていって。
でも、もし実家暮らしならご両親が心配するから連絡したほうがいいわ」

羽菜ちゃんは優しい口調で言った。

「心配する親なんていないわ。
二人ともずっと仕事で帰って来ないんだから」

蘭はぶっきら棒に答えるものの
その表情は今まで見たことがないほど
寂しそうだった。

きっと羽菜ちゃんもその微妙な表情の変化に
気付いたのだろう。

「じゃあ、明日も泊まっていくといいわ。
ちょうど私、明日は仕事お休みだから。」

明るく微笑みながら言った。