年下御曹司の箱入り家政婦

「ごめん....羽菜ちゃん...」

いつになく、沈んだ櫻ちゃんの表情に
私もいたたまれなくなってくる。

「ううん、私も疲れてひどいこといっちゃってごめんね」

私は櫻ちゃんに気を遣わせまいと
首を横に振ってみせた。

しかし、櫻ちゃんは
「いや、違うんだ。羽菜ちゃん···
ごめん、僕···──」
と、苦しげに顔を歪ませている。

「えっ...?」

櫻ちゃんは少し逡巡したあと───

「ごめん。僕、羽菜ちゃんのことお姉さんだなんて一度も思ったことない」

私と目を合わせることなく呟いた。

二人の間に長い沈黙が流れる。

先ほど私が傷付けたばかりなのに
櫻ちゃんの言葉で今度は私の心がえぐられる。

ショックでなかなか返す言葉が出てこない。

姉だなんて一度も思ったことはない──

櫻ちゃんの言葉は天涯孤独となった私の唯一の拠りどころを否定されたようだった。

しかし、その言葉で傷付いた私を櫻ちゃんに悟られたくなかった。

私はぎこちない笑顔で言葉を絞り出す。

「ううん。そりゃそうだよ。
私と櫻ちゃんは血なんて
繋がってないんだもん...
そうよ...血なんて繋がりは.........」

そこまで言うと
言葉を詰まらせた私の目から大粒の涙が
ポロポロ溢れだした。

本当の家族だと思っていたのは自分だけなのだと思いしらされているようで、涙を押さえることができない。

「ごめんね!
泣くはずじゃないのにおかしいなぁ...
止まらない...」

私は誤魔化すようにヘヘッと泣き笑いしながら手で一生懸命涙を拭う。

「羽菜ちゃん...」

櫻ちゃんは唇を噛み締めると、何かを決心したように拳をギュッと握りしめた。

そして、私の前まで足を進めると
涙でぐちゃぐちゃの私の顔を両手で包み込んだ。

そして優しく微笑むと
親指で私の頬に伝う涙を拭う。

「櫻ちゃん ...?」


私を見下ろす櫻ちゃんの真っ直ぐな優しい瞳から私は目をそらすことが出来ない。

いつからこんなに背が高くなったのだろう...

出会った頃はこんなに手も大きくなかった...

羽菜の頬をすっぽりと包み込むゴツゴツとした大きな手は私の知らない大人の男の人の手のようだ。

「羽菜ちゃん...
僕はこれからも羽菜ちゃんのこと
姉だとは思えない。
出会った時から羽菜ちゃんは
大切な女の子だから。」

この意味わかる?────櫻ちゃんの問い掛けにいまいちピンとこない私はフルフルと顔を横に振る。