年下御曹司の箱入り家政婦

「はあ、思わぬところで刺激的な光景を目にしてしまった...沈まれ俺」

ハンドルに突っ伏している櫻ちゃんは
気が動転して心の声が漏れ出してしまっている。
櫻ちゃんの頭の中でどんな葛藤が繰り広げられているのか分からないが、耳まで赤く染まっているのを見ると私の想像の範囲を超えることなのだろう。


「櫻ちゃん、頭でも打った?」

私は茶化すように投げ掛けた。

「打ってないよ!失礼だな」

櫻ちゃんは顔をあげると憤慨したように言った。

「ごめんごめん、でもありがとう。
とっても気に入ったわ。」

「どういたしまして。
これは普段身につける用で
新からもらったのは観賞用ね。
どこか棚の奥の方にでも閉まっておいて」

観賞用と言う割には棚の奥にしまえと
いう矛盾に思わず笑ってしまう。

私は「はいはい」と聞き入れると
櫻ちゃんは満足げにうなずいた。

「それによつ葉のクローバーは
願いも叶えてくれるんだよ?
羽菜ちゃんは何をお願いする?」

櫻ちゃんは時折ロマンチストなことを
平気で口にすることがある。

お願い事ね...

真剣な眼差し私の答えを待つ櫻ちゃんに
私は少し考えてから
「う〜ん..そうね。
じゃあ、櫻ちゃんと叔父様と伯母様が
ずっと元気で幸せに暮らせますように」
よつ葉のクローバーに願いを込めた。


「ったく、いつも人のことばっかり. . .
折角のお願い事なのに...」
 
櫻ちゃんは口では飽きれながらも
フニャッと表情は破顔している。


「だけど、僕達だけで自分の幸せは?」

櫻ちゃんにそう問われて
私は「そういえばっ」と気づく。

「でも、私は櫻ちゃん達が元気で幸せなら
それで十分幸せだから」

私を闇から救ってくれた人達が
元気でいてくれることが何よりも私の願いなのだ。


「じゃあ、羽菜ちゃんの分は
僕のよつ葉のクローバーにお願いするよ。
羽菜ちゃんがずっと健康で幸せに暮らせますように. . .」
 
そう言ってネクタイピンを手に
真剣に願いを込める櫻ちゃんの横顔を見つめていると愛おしさが溢れだしてギュッと抱きつきたくなる。