言おうか言うまいか戸惑っている様子の
羽菜ちゃんは決心したように
ゴクリと緊張を飲み込むと
「櫻ちゃん、私ね...」
震える声で口を開いた。
その時、
「夢野っ」
後方から羽菜ちゃんを呼ぶ声に
僕達の二人きりの時間が終了だと
知らせるように響き渡った。
僕達は声のした方へ視線を移すと
やはりそこには新の姿があった。
折角、良い雰囲気だったのに
邪魔するなよな
僕は煩わしげに顔を歪めた。
こんなことなら、さっき迷わず
連れ去ってしまえば良かったと
少し後悔する。
「遅いから、様子見に来た。
皆、心配してるぞ」
新はそう言って悲しそうに微笑んだ。
「すみません、酔いも冷めてきたので
すぐに戻ります」
羽菜ちゃんは
浴衣の袖口でまだ少し残っている涙を
急いで拭うと立ち上がった。
仕方ないので僕も嫌々ながら立ち上がる。
新は安心したように「そうか」と
小さく呟くと僕達に背を向け
旅館へと歩き始めた。



