それからパンケーキ専門店での仕事が始まって一週間。
私は櫻ちゃんのことを考える暇のないくらい忙しい日々を送っていた。
パンケーキ専門店の雫-sizukuは愛妻家のオーナーの奥様の名前を取って付けたそうだ。
営業時間は平日は午前11時から午後19時まで定休日は水曜日だ。
キッチンは私のほかに3人、オーナーの息子の無口で必要最低限のことしかしゃべらない芦屋新(あしやあらた)さん、スキンヘッドで見た目は強面だがお姉?の関(せき)さん、
おしゃべり大好き食べること大好きのぽっちゃり可愛い茜ちゃんだ。
新さんが無口な分、他のふたりがおしゃべりなので毎日忙しいながらも楽しく仕事ができている。

「羽菜ちゃん!5番テーブルのお客様、タンドリーチキンリゾット2つおねがーい」

関さんがフライパンでハンバーグを焼きながらお願いするようにウインクをしてみせた。

「タンドリーチキンリゾット2つですね!
了解です!」

私は関さんに笑顔で返す。

ここ雫sizukuはパンケーキがメインだが、ランチメニューにはパンケーキ以外のカレーやリゾット、ハンバーグプレートやパスタも美味しくて評判だ。
お昼時ともなれば、目が回るほどの忙しさだ。私と関さん、今日はお休みの茜ちゃんはパンケーキ以外の料理を担当している。
パンケーキの担当はほぼ新さんで、手伝うことといえばたまにパンケーキのトッピングくらいだ。こだわりの焼き加減があるらしく新さんはずっとホットプレートとにらめっこだ。こだわっているだけあって新さんの焼くパンケーキは最高にふわとろで形や色の寸分の狂いもないほどだ。

お昼時のピークも終わり、私は新さんが焼いたパンケーキにイチゴをトッピングしていた。
綺麗な真ん丸のお月様みたいなパンケーキに「私もこんなパンケーキ焼いてみたいな」と思わず呟く。

しかし、
「100年早い」

そう言って、泡立て器でボウルの中の生地をかき混ぜていた新さんにぴしゃりと切って捨てられた。