年下御曹司の箱入り家政婦

「なんでって言われても
持ってきてないものは持ってきてないんだから...そっちこそなんで怒ってるのよ?」


「こんな浴衣姿なんて
他の男に見せちゃ駄目でしょ?
ほらっ、ちゃんと胸元隠してっ」

僕は羽菜ちゃんの浴衣の襟元を
これでもかとキッチリと合わせ直す。

「ちょっとっ!
苦しいんだけどっ!」

羽菜ちゃんは僕の襟元を掴む手に
自分の手を重ねると
「そんなにしなくても誰も見ないわよ!」
と、キッと睨みつけた。

「見るよ!
僕だって見ちゃうんだから
他のやつだって絶対見る!」 

 
「櫻ちゃんを基準にしないでよっ」


羽菜ちゃんは呆れた表情で言った。

その一部始終を横で見ていた茜さんは
「なんかラブラブ過ぎて
羨ましいです。
羽菜さん、とっても愛されてますね」

ラブラブと言われて僕は
嬉しくて表情が緩む。

しかし、
そんな僕とは対象的に羽菜ちゃんは
「羨ましくなんかないわよ。
こんな愛情表現異常よ」
そう言って羽菜ちゃんは
人差し指で僕の胸をトントンと
叩きながら詰め寄ってくる。

なんだよ。異常って。

僕は叩いてくるその指を掴むと
「羽菜ちゃんが可愛いすぎるのが
いけないんだよ。 
それこそ、その可愛さ異常だよ。
僕は悪くない」
開き直って言った。

「もう、茜ちゃんの前でやめてよ」

羽菜ちゃんは恥ずかしさのあまり
真っ赤な顔でたじろいでいる。

ほら、やっぱり可愛い。

僕は自分の言ったことの方が
正しいと実感する。


すると、どこからともなく
「お〜うすけ〜」
恨みのこもった声が響き渡り
背筋に悪寒が走った。