年下御曹司の箱入り家政婦

後からリビングに入ると櫻ちゃんはいそいそとローテーブルの上にお惣菜や飲み物を並べ始めていた。

「あっ!取り皿いるよね」

そう言って食器棚からお皿を取り出す姿はもうすでに自分の家のようだ。
引っ越しで食べ物も買いに行けなかったから、助かるもののこれでは一人暮らしの意味がない。

「羽菜ちゃん、なんでそんなとこ突っ立ってるの?座ってよ!」キョトンとした表情でこちらを見つめる櫻ちゃんは男ながら可愛い顔して怒る気が失せてしまう。

「ねぇ?櫻ちゃん?
なんで隣の部屋に住むこと教えてくれなかったの?それに櫻ちゃんの会社ここからだと遠いよ!」

私は櫻ちゃんの向かいに腰を下ろしながら
ムッとした表情で問いかけた。

「あーそのことね。
でも羽菜ちゃんだって僕に内緒で勝手に仕事決めたり、家出ようとしてたじゃん!」

櫻ちゃんは唐揚げを一口で頬張ると
ジトーっとした目付きで不満げに睨みをきかせた。
「それはそうだけど...」
そこをつかれるとグーの音もでない。

「それに会社までは電車で一時間ちょっとだし。
社用車で直帰することも多いと思うから大丈夫だよ」

「いや、でも残業だってあるだろうし、
私は大丈夫だから櫻ちゃんは会社の近くで
部屋を見つけた方がいいよ」

「やだ!僕がどこに住もうが僕の勝手だし」

しつこいなーといった表情で
おにぎりを口いっぱいに放り込むと
小動物のようにモグモグと頬張る櫻ちゃん。
私は負けじと「新入社員は覚えることだって沢山あるんだし、通勤で疲れて体調崩したらどうするの?」櫻ちゃんに畳み掛ける。


しかし、櫻ちゃんは
「うるさいなーもうこの話は受け付けません」と耳を両手で塞いでしまった。

長い付き合いだ櫻ちゃんがこうなってしまってはもう聞く耳を持ってはくれないだろうと「後で泣いても知らないんだから」と諦めの溜め息を一つもらした。