年下御曹司の箱入り家政婦


バスが出発したころ、カラオケ大会が開催された。

前の席でオーナーとオーナーの奥さんが二人でデユエットするのを
皆で手拍子をして盛り上げる。

「オーナーの奥さん、初めて見たわ。綺麗な人ね。」

私は手拍子を打ちながら隣の茜ちゃんにボソリと呟いた。

「あれだけ綺麗な人だからオーナーはべた惚れなんです。
奥さんは毎年、社員旅行だけは一緒に参加ですしね。
オーナーが大好きな奥さんと一時も離れたくないらしいです」


「へえ~、オーナーってかなりの愛妻家なのね...」

自分の店に奥さんの名前をつけるくらいだから、よっぽど奥さんを愛してるのだとは思っていたけどそこまでとは...

なんだか櫻ちゃんと通じるものがある...

きっと櫻ちゃんも自分の会社で
社員旅行があっても行きそうにないだろうな...

私はその話を聞いて思わず櫻ちゃんを
思い浮かべ苦笑いした。

茜ちゃんは「そんなに愛されて羨ましいですよね」と言いながら
私の前に袋の開いたポッキーを“どうぞ”と差し出した。

私は「ありがと」とお礼を言いながら
ポッキーを一本、袋から取り出した。

そうかぁ、はたからみれば
羨ましいと思うのか...

私も櫻ちゃんが自分を大事に思ってくれることは有難いし嬉しいとは思うのだけど...

私はどちらかというと
女友達や職場の人たちとの付き合いも
大切にしたいと思っている。

だから、こうして嘘をついてまで
旅行に来ているのだけど...

しかし、やはり罪悪感は拭いきれない。

私は電源を落としたままの
スマートフォンを手に溜め息をついた。

「羽菜さん、今日はとことん楽しみましょうね♪」

そこに茜ちゃんが楽しそうに
日程表を見ながら
声を弾ませた。

「うん!!」

私もその楽しそうな笑顔に
沈んでいた心がウキウキと弾んでくる。

そうだ!
せっかく櫻ちゃんに嘘までついて参加したのだから楽しまなきゃ!!
そして、帰ったら櫻ちゃんに
ちゃんと正直に話して謝ろう!!
きっと誠心誠意謝れば櫻ちゃんも
分かってくれるわよ。

私はそう自分に言い聞かせると
茜ちゃんと二人で日程表を見ながら
話に花を咲かせた。