「分かったから、仕事遅れちゃうよ?」

私は困ったように呟いた。

しかし櫻ちゃんは捨てられた
子犬のような眼差しを向けて
動こうとしない。

私ははあっと溜め息を吐くと櫻ちゃんを
優しく抱きしめた。

「大丈夫だから...
櫻ちゃんの好きそうなお土産も
沢山買って帰るし。
帰ったら一緒に食べよう?ねっ?」

櫻ちゃんは私をギュッと抱きしめ返すと
コクりと頷いた。

嘘ついてごめんね...
今回だけだから、許して...

申し訳無さで
抱きしめる腕に力がこもる。

「羽菜ちゃん?
そんなに僕と離れるの嫌なら
出張に行くのやめようかな...」

私は「ご、ごめん!」と慌てて
櫻ちゃんから距離を取った。

今から旅行の準備しないといけないから
仕事に行ってくれなくては困る(汗)

わたしが寂しがってると
勘違いしている櫻ちゃんは
ニコりと顔を綻ばせた。

「じゃあ、寂しかったらいつでも
飛んでいくから連絡してね♪」

そして、お弁当を手に
意気揚々と部屋を出ていった。

飛んで来てもらっては大変だ...

私はベランダから櫻ちゃんの社用車が
発進したのを見届けると
念のため携帯をOFFにして
急いで旅行の準備を始めた。