櫻ちゃんに優しくされればされるほど、
後ろめたさや罪悪感が湧いてくる。

でも、初めての職場での慰安旅行なのだ。

私だって皆と同じように行きたい。

私はグッと良心を押し殺すように
息をのんだ。

「あっ、そうだ。
この前、羽菜ちゃんが買ってくれたネクタイ
斗真に自慢したらその色いいじゃんって褒められたんだよ」

櫻ちゃんは嬉し気にネクタイの歪みを
直しながら呟いた。

「そ、そう。それは良かったわ。」

それは先日、櫻ちゃんを
騙すせめてもの償いに
買ってきたものだなんて
口が裂けても言えない。

しかも、余程嬉しかったのだろう。

櫻ちゃんはそれから三日間
私の買ったネクタイを毎日着けて
会社に出社している。

それが湧いてくる罪悪感にさらに拍車をかけるのだ。

「櫻ちゃん?
そろそろ出ないといけない時間じゃない?」

「うん。そろそろ出るよ。」

櫻ちゃんはお弁当を手に取り
私の目の前まで来ると
目の高さまで腰を落とした。

「羽菜ちゃん、
気を付けて旅行行ってきてね。
あと車には気を付けてね。
それから絶対、知らない男の人にはついて行っちゃダメだよ」


櫻ちゃんはまるで小学生の子どもに
言い聞かすような口調で言う。