年下御曹司の箱入り家政婦

私が思いを巡らせていると
「これは新商品のパンケーキなんだけど、食べてみて」と目の前にパンケーキの乗ったプレートが置かれた。

パンケーキの上には雲のような真っ白なクリームがたっぷりとかけられていて、トッピングにはイチゴやラズベリー、桜の花びらに見立てたイチゴのチョコレートが薄くスライスされて散りばめられていた。

「わぁー可愛い」

先ほどまで緊張で強ばっていた羽菜は
思わず目を細めた。


そして、「いただきます」と一口、パンケーキを頬張る。

「とても美味しいです!
生地にもイチゴの果汁を練り込んでるんですね!」

「ご名答!
新(あらた)、やっぱり雇って良かっただろう?
羽菜ちゃん可愛いし、接客にも欲しいくらいだよ。」


オーナーの視線のさきをたどると
カウンターと厨房を
つなぐ受け渡しカウンターから
若い男が顔を覗かせいた。

その若い男は私と同じくらいだろうか、切れ長の目に端正な顔立ちだ。
羽菜が彼に目を向けると
「別に可愛いとか料理に関係ない」
と抑揚のない口調ですぐに
厨房の中へと引っ込んでしまった。

「愛想がなくてごめんね。
あいつはうちの息子で、新(あらた)っていうんだけど、親がいうのもなんだが料理が恋人みたいな変わったやつだから、気にしないで。」

「はい...もしかしてこのパンケーキも新さんが?」

「そうなんだ。私より新のほうが
料理の腕は確かだから、厨房のほうは
ほぼあいつに任せて私は接客がメインかな。
羽菜ちゃんが入ったら、指導はあいつになるけど羽菜ちゃんと同い年だから気を使わなくていいからね」

正直ちょっと取っつきにくそうだけど
こんな可愛くて美味しいケーキを作る人だ。
きっと話せば素敵な人に違いない。
私もこんなに人を幸せにするケーキを
作れるようになりたい!

「はい!私、新さんに認められるように
精一杯がんばります!!」

オーナーはホッとしたように顔を緩ませた。

「それじゃあ、出勤はいつからにする?
うちは早いほうが良いんだけど来月からでも大丈夫かな?」

「はい!って言ってもまだ家族にも仕事決まったこと言ってなくて...
今の家からだと通勤に一時間以上かかるので職場の近くで一人暮らしもはじめたいですし...
今日帰ってから話してみるのでまた日にちついては改めて連絡しても良いですか?」

私の言葉にオーナーは二つ返事でOKしてくれた。

おば様には少し話してはいるが、おじ様と櫻ちゃんにはまだなにも話していない。
おじ様はきっと応援してくれるだろうけど、
櫻ちゃんは大丈夫だろうか。
少々、シスコン気味なところがあるからな。
でもいつまでも居候するわけにもいかないし
今回、たまたま仕事が決まったのは私が自立する神様がくれたチャンスだと思う。
今夜、みんなに話してみよう。