年下御曹司の箱入り家政婦

私は注文機器のハンディを手に取ると
櫻ちゃん達の座っているテーブルに
目を向けた。

櫻ちゃんの向かい側の席には斗真くんが
隣の席には蘭さんが座っていた。

まだ料理が決まっていないのか
三人はメニュー表とにらめっこしている。

櫻ちゃんと蘭さんは二人で一つの
メニュー表を見ていて、かなり距離が近い。

メニュー表は1テーブルに二枚しか
設置してないから仕方ないにしても、
あんなに近づかなくて
良いんじゃない...?

さきほどの面白くない不快感が
再び私を襲ってきた。

時折、顔を見合せて笑い合う二人に
チクリと胸にトゲが刺さったように痛い。

どうしちゃったの...わたし...

あの中に割って入ることに
抵抗を感じて足が動かないのだ。

仕事なんだからしっかりしなきゃ。

私はギュッとハンディを握りしめると
彼らの元へと一歩、足を踏み出した。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

そして、彼らの席の前まで行くと
少しツンとした声色でたずねた。

本当はこんな冷たい態度をとるつもりは更々なかったのだが、櫻ちゃんの腕と蘭さんの腕がピタッとくっついているのが目に入った途端、口が勝手に強い口調になっていた。

「羽菜ちゃん、来てくれたんだね」

しかし、それに気付くことなくニコニコと
無邪気な笑顔を向ける櫻ちゃん。

自分が呼んだんじゃない(怒)

沸々と言い知れない怒りがこみ上げてきた。


「斗真くん、注文決まった?」

私は大人げなく、
櫻ちゃんの言葉を聞き流して
斗真くんへとニコリと笑顔を向けた。

「あっ、ハイ!
俺はハンバーグプレートのサラダセットと
季節のパンケーキを...」

斗真くんはそこまで言いかけて
前に目をやった途端
血の気が引いたように青ざめた。

櫻ちゃんが敵視するような鋭い目を
斗真くんに向けていたからだ。

私はハァッと息を吐いて
「櫻ちゃんは?」
と少し優しい口調で聞いた。

私の所為で斗真くんに八つ当たりされては
申し訳ないからだ。