年下御曹司の箱入り家政婦

ホールに出ると
「羽菜ちゃん!ご飯食べに来たよ!」
スーツ姿の櫻ちゃんが嬉しそうに手を振っていた。

「櫻ちゃん?」

「羽菜さんお久しぶりです」

そして、櫻ちゃんの横に立っている斗真くんが軽く会釈した。

「あれ?斗真君も...
近くで仕事してたの?」

「そうなんだ。
たまたま取引先の訪問帰りに
車で近く通ったから
羽菜ちゃんのお店で食べて帰ろうかなって...」

櫻ちゃんは私の白いコックシャツと
腰巻きエプロンに目を落とすと
嬉しそうに目を細めた。


「いや、30分かけて来たので近くは
なかったっす。
おかげで、お腹ペコペコ...イテっ!?」

余計な事を口にするなと言わんばかりに
櫻ちゃんは斗真くんの頭を容赦なく叩いた。

「あはは..何となく経緯がわかったわ。
斗真君、櫻ちゃんの我が儘に付き合わせてごめんね。」

「いえ、俺も羽菜さんに会えたので嬉しいっす。」

櫻ちゃんは照れくさそうにしている斗真くんの頭を再びパコンと叩いた。

私は困ったように微笑むと
櫻ちゃんの隣に立つ女性に目をやった。
かなり綺麗な顔立ちをしているが、ジッと
冷めた眼差しでこちらを見つめている。

「隣の彼女もごめんなさいね。」

私は申し訳ない気持ちで手を合わせた。

「別にあなたに謝られる覚えわないわ」

彼女は(わずら)わしげにそっぽを向いた。

「おい!蘭!その態度は何だよ?
羽菜ちゃんに失礼だろ?謝れ!!」

櫻ちゃんは彼女に詰め寄るが
彼女はツンとした態度で表情を崩さない。

蘭...?

私は櫻ちゃんが初めて
女性を呼び捨てにしているのを
耳にして一瞬、戸惑いを覚えた。

「櫻ちゃんいいから…
じゃあ、私は仕事に戻るから
三人ともゆっくりしていってね。」

私は軽く微笑むと足早に厨房へと入っていった。