スクランブル交差点の赤信号に足を止められ、高層ビルの群れに四角く切り取られた空の青を見上げた。ブラッドオレンジの様な日差しに目を細めると、額にじわり汗が滲む。
(……暑っ)
8月の終わり、アスファルトに立つ陽炎。どこからともなく押し寄せる人波に、アタシの存在はどんどん小さく紛れて行く。そこに覚える小さな自由にも似た開放感が心地いいと思いながら、どこか息苦しさも感じる。ネガティブに傾きかけた思考を信号の青で切り替える様に、アタシは交差する人波を泳ぐように歩き出した。
向かった先は、60階建てビル近隣の水族館。水族館は海の近くにあるものなんて固定観念は、屋上へと向かうエレベーターが開いた瞬間、覆された。
「仁那」
不意に名前を呼ばれ、声の主を視線で辿ると、見慣れない制服姿の賀正こと加賀正真が、無邪気に手招きをしている。賀正とは昨年入学した大学のサークルで出会った。ちなみにニックネームの由来は、加賀正真の漢字の真ん中二つをとって賀正。そして私達が所属しているサークルは、活動も参加も自由気ままなゆるさが売りのイベントサークル。
「仁那の制服姿、なんかウケる」
賀正にからかわれ、自分も卒業した高校の制服を着ている事を今更ながら思い出した。約1年半前までは、毎日着ていたものだったのに、今はそれを着ているだけで、無性に恥ずかしさがこみ上げてくる。サークル内でくだらない賭けをして、負けた代償がこの状況を生んだ。
「『着てこい』って言ったの賀正じゃん」
「一回やってみたかったんだよ。制服デート」
付き合ってもないのに「デート」っていうのは、ちょっと引っ掛かったけど、深追いする方が面倒に思えて、敢えてスルーを決め込んだ。
(……暑っ)
8月の終わり、アスファルトに立つ陽炎。どこからともなく押し寄せる人波に、アタシの存在はどんどん小さく紛れて行く。そこに覚える小さな自由にも似た開放感が心地いいと思いながら、どこか息苦しさも感じる。ネガティブに傾きかけた思考を信号の青で切り替える様に、アタシは交差する人波を泳ぐように歩き出した。
向かった先は、60階建てビル近隣の水族館。水族館は海の近くにあるものなんて固定観念は、屋上へと向かうエレベーターが開いた瞬間、覆された。
「仁那」
不意に名前を呼ばれ、声の主を視線で辿ると、見慣れない制服姿の賀正こと加賀正真が、無邪気に手招きをしている。賀正とは昨年入学した大学のサークルで出会った。ちなみにニックネームの由来は、加賀正真の漢字の真ん中二つをとって賀正。そして私達が所属しているサークルは、活動も参加も自由気ままなゆるさが売りのイベントサークル。
「仁那の制服姿、なんかウケる」
賀正にからかわれ、自分も卒業した高校の制服を着ている事を今更ながら思い出した。約1年半前までは、毎日着ていたものだったのに、今はそれを着ているだけで、無性に恥ずかしさがこみ上げてくる。サークル内でくだらない賭けをして、負けた代償がこの状況を生んだ。
「『着てこい』って言ったの賀正じゃん」
「一回やってみたかったんだよ。制服デート」
付き合ってもないのに「デート」っていうのは、ちょっと引っ掛かったけど、深追いする方が面倒に思えて、敢えてスルーを決め込んだ。