7月 
小児科恒例の納涼会は、夜勤や当直を除いたスタッフ40人程が参加する大人数の飲み会。
会場も広く、テーブルもいくつかに別れていて、私は若手の先生や看護師達と一緒に入り口の近くに座った。
剛先生も果歩先生も、部長達と同じ前の方のテーブルにいるようだ。

「みんなお疲れ様。今日は無礼講だから、心ゆくまで楽しんでください。カンパーイ!」
部長の音頭で、会が始まる。

「桜子先生は小児科医になられるんですか?」
しばらくしてみんなほどほどにお酒が回った頃、ビールを注ぎに来た病棟看護師が聞いてきた。

「うーん。まだ分かりません」
正直自分でもはっきりしない。

「やっぱり消化器科に戻りたいんですか?」
「それは・・・」

去年の事件を知っているであろう看護師の遠慮のない質問に、言葉が止まった。
きっとお酒が入っているんだろうし、悪意がある訳ではないと思う。
でも、私にとっては古傷のようなもので、触れば瘡蓋がはがれてしまう。