大河が降板後、徐々に点差を詰め寄られ、この9回の裏で、逆転サヨナラのピンチを迎えていたのだった。


そんな体が強張りそうなほどの緊張感の中――。

ベンチで声がかかった。



「…大河、いけるか?」

「もちろんです」


見ると、わたしの隣で安静にしていた大河が、キャップを被り直して立ち上がった。


「…待って、大河!大丈夫なの!?」

「ああ。もうすっかりよくなったし」


って言っても、まだ若干指先が震えてるじゃん…。


大河が無理しているのはわかっていた。


でも、無理してでも自分の手であと1つのアウトを取りたいという大河の気持ちは、痛いほど伝わってきた。


だって途中降板するとき、悔し涙を目に浮かべていたから。


だから、それ以上わたしはなにも言えなかった。


「なんで泣きそうな顔してんねんっ」