「さっきはベッドを譲っていただき、ありがとうございました!……先輩はそんなつもりなかったかも知れませんが助かりました!」

そう長々と話した後、彼女は下駄箱相手に深く一礼する。

ベッドって……ああ、さっきの。

彼女が保健室にいた子だと気づいたのはその言葉を耳にした時。

2限の途中に行った保健室でカーテン越しに聞こえてきた弱々しい声と、今の元気でハキハキと話す彼女の声が一致しなかった。


一瞬、目が合ったけど顔まではちゃんと見てなかったし。


てか、顔色も戻ったみたいだな。

「先輩のことすごく優しい人だなと思いました。先輩は私にベッドを貸してくださった神様……つまり、ベッドの神様です!」

最後にそう言い残して、校門へと歩いて行く彼女。

「ベッドの神様ってなんだよ」

それに、優しい人?

俺は彼女を気遣うような言葉なんて一つもかけていないのに。


優しいのはそっちだろ。

相手の立場に立って物事を考えられるんだから。


「お大事に」くらい言えば良かった。

それは、それで不自然か?


でも、彼女ならその言葉を純粋に受け止めてくれたような気がする。



その出来事があってから、俺は彼女を目で追うようになり、いつしか目が離せなくなっていた。