という訳で、『日本大使館にハッキングを掛けろ』という凪徒の無謀な依頼は却下され、役に立たない大使館と秀成、更に何も思い浮かばない自分に腹の立ったままの凪徒……と、自分の為に腹を立ててくれている凪徒に、至らない自分をひたすら憂うモモが、こうして顔を突き合わせ、ランチを頂いているといった顛末(てんまつ)なのであった。

「あの、先輩。食事を終えたら一度ホテルに戻りませんか?」

「ん? ああ、そうだな。やみくもに探しても見つかるような話じゃねぇし」

 それを聞いたモモは、キウィフルーツのたっぷり乗ったケーキを頂き、凪徒もついにグラスをテーブルに置いた。

 会計を済ませ、雲が影を落とす真っ白な通りへ歩み出る。

 モスクワの屋内は何処(どこ)も暖かいが、二月下旬のこの時期は最高気温でさえも氷点下だ。

 お陰で雪も溶けない為サラサラとして歩き易いが、歩道の脇に積み上げられた雪の山の手前を歩いていたモモは、突然大きな何かが()し掛かってきて、その雪山の斜面に押し倒された形になった。



 ──え……? え? えっ! え──っ!?



 斜め四十五度にあおむけにされたモモの上に覆い被さっていたのは、(まぎ)れもなく『酔ったことのない』凪徒だった──。