──でも……本当に叶わなく、なっちゃった……。

 此処での数日を終えてサーカスへ戻っても、未だ三月にやっと届く頃だ。

 あの町の桜が満開になるのは四月初旬。

 それまで自分はサーカスにはいられない。



 ──いや、そんなことよりも……。

 モモは布団の中で頭を抱え丸くなった。

 あの時は母親の捜索が出来ることと、凪徒との最後の想い出作りになると、つい衝動的にすがってしまったが、此処から帰国したら即、団長に退団の意を告げなければならない。

 辞めると決めている人間が、こんなロシアなどという遠方まで多額の費用を掛け、研修旅行に出させてもらってしまっていた。

 更に転職先は同業種なのだ。

 みんなから怒られるどころか、恨まれてしまうかもしれない……モモはそんなことも熟考出来ず、行動してしまった自分の思慮のなさを嘆かずにはいられなかった。



 ──とにかく新しい職場でお金を貯めて、何とかこの旅費二人分を団長に返そう。それと……あたしにはブランコしかないのだもの。帰ったらたとえ数日でも精一杯の演舞をしよう。それ位しか今のあたしには、何も出来ないのだから──。

 再び閉じた(まぶた)の奥で、モモは自分の流した涙の中を、必死に泳ぐ夢を見た──。