「分かっちゃいたけど……やっぱり、さびっ!!」

 凪徒は自分の身体を抱きかかえるように腕を回し、凍りつきそうな背筋を一度ピンと伸ばしたが、叫んだ後に再び背を丸め身震いをした。

 ホテルの入口に駆け込んで、まとわりつく温かな空気にホッと息をつく。

 二人を乗せた飛行機は、定刻通り出発同日の夜十八時半、モスクワの玄関口シェレメーチエヴォ国際空港に到着した。

 其処からアエロエクスプレスという直通列車で三十五分、終点ベラルーシ駅へ。

 すぐ傍の地下鉄ベラルースカヤ駅から二号線に乗り換えて、市の中心クレムリンを望む老舗(しにせ)高級ホテル「バルチュグ ケンピンスキー モスクワ」に辿(たど)り着いたのは、もう入国から二時間強経った二十一時手前だった。

 着陸間際の機内食でお腹の満たされていた二人は、とりあえず各自の部屋で休むことになった。

 そこで凪徒は早速試してみようと、独りウォッカを求めて夜の街に繰り出そうとした……ものの。

「これじゃウォッカを見つける前に、凍死するな……」

 仕方なく自分の部屋に戻り、シャワーを浴びてベッドに潜り込んだ。