茉柚子はハッと目を見開き、唇は開いたものの何も言えなかった。

 暮の温かな笑顔が(まぶ)しいように、頬が上気して、すぐ視線を目の前の料理に下げた。

「そんな尊敬されるなんて……有り得ないですよ。私はずっと何処かで、母を独占するあの子達を(ねた)んできたんです。三十を越えて、やっと母の仕事を心から理解出来るようになって、後を継ぐ決心がつきました。まだサポート役と言っても、おつかい程度のことしか出来ない新人ですけれど」

「そうでしょうか。貴女と話していると、とてもモモの口調に似ていることに気付かされます。モモは貴女に憧れていたのだと思いますよ?」

 褒められれば褒められるほど、口にした食事の通っていく先がジンと痛む感じがした。

 自分はこんなにモモのことを愛してくれているサーカスの人達から、彼女を奪おうとしているのだ──罪悪感が身体中に広がり、何を食べているのかすら、味も分からなくなっていく。

「モモのこと、良く分かってくださっているのですね……」

「貴女方からお預かりした大切なお嬢さんですから」

 ──そう思うのでしたら、どうか私達の(もと)へ、モモを返してください!

 そう叫びたい気持ちを押し殺して、茉柚子は変わらない和やかな笑みを返した──。