茉柚子は『過去』に身を置きながらも、そんなモモの思いやりにつけ込むかの如く、『今』ですらモモに()いてしまっている現状を憂い、悔しそうに瞳を閉じた。

 暮は静かに話を聞いていたが、ずっと手に持ったままのフォークを一旦戻し、

「自分の見解は、早野さんとは違います」

 と穏やかな口調で反論した。

「え……?」

 驚いて顔を上げる茉柚子に、暮は優しい眼差しを送る。

「モモは……きっと貴女を尊敬していたのだと思います。お母さんを他の子供達に取られてしまっても、気丈に振舞ってきた貴女を。実はサーカスでも、モモの遠慮深さは気になるところでした。自分やモモの相棒は、モモが無理しているのだと思っていたのですが、モモ自身はそれに気付いていなかった。昨年の春にちょっとした事件が起こりまして、それが良いきっかけになり、モモは或る意味『自分の殻』を破りました。でも今までのモモを捨て去った訳じゃない。過去の良い部分を残しながら、自己を表現出来るようになりました。きっとモモは貴女を尊敬し、貴女のようになろうと努めてきたのだと思います。今まではそれが『過ぎて』しまっただけ……だから、貴女は気に病むことはない」