「モモ! モ~モ!!」

 翌日、朝食後。

 モモはキッチンカーにトレイを返し、自分の寝台車に戻る途中、先に食事を済ませて出ていった暮の(ひそ)めた声に呼び止められた。

「え? 暮さん?」

 辺りを見回すが暮の姿は見えない。

 再び「こっち、こっち!」と斜め右から聞こえ、プレハブの角から微かに見える影が手招きしていた。

「どうしたんですか?」

 駆け寄り尋ねるモモ。

「しーっ! 周りに誰もいないか?」

「はい……」

 モモを背後に回し今一度辺りを見回して、暮は茉柚子から預かった紙包みを手渡した。

「は、早野 茉柚子さんからだっ」

「え? 茉柚子さんから?」

 急いで中身を確認すると、園を訪ねた際、涙した茉柚子に差し出したハンカチだった。

「ハンカチ……?」

 暮もまた、どうして茉柚子がモモからハンカチなどを借りたのだろうと小首を(かし)げる。

「これ、どうして暮さんが?」

「あ、ああ。昨夜の見回り中に遭遇して、モモは来客中だったから預かったんだ」

「そうでしたか……ありがとうございます。あ、あの、茉柚子さん、何か言ってましたか?」

 此処数日ひとまず忘れようと努めていた『引き延ばしている返事』の一件を、心の奥底から拾い上げる。

 そうしてモモは少しだけ暮に焦りを見せた。