「何だ、モモ。サーカスにいながら知らねぇのかよ。モスクワにある世界最古のサーカスの一つ、ニクーリン・サーカスだ。通称はオールド・サーカス。名前の由来になったユーリー・ニクーリンは其処の有名なピエロだぞ。……って、暮に言ったら悔しがるな」

 珍しく興奮した様子の凪徒は暮のそんな顔を想像し、意地悪そうに笑ってみせた。

 モモも同時にそれほど歴史の深い有名なサーカスへ行けるのならと、つい遠い目をして想いを馳せる。

「じゃあ、決まりだの? 出発は一週間後だ。冬真っ只中のロシアになんて行くのだから、防寒具買っておくんだぞ」

「「え……一週間後……?」」

 確かに此処での興行は先々週の金曜から始まり、来週の日曜には終わる短期公演だが──。

「あ、あの、あたし、パスポートなんてっ」

「団長、すぐ次の興行が控えてるじゃないですか。まさか二泊三日で行ってこいなんて言ってるんじゃ……」

 二人の戸惑いがほぼ同時に団長に向けられる。──が、

「安心しろ。まずモモのパスポートは、既に杏奈さんが作ってくれておる」

 横に座る杏奈から、すっと差し出される十年パスポート。

 ──パ、パスポートって、本人の同意もなしに、それもそんなに短期間で作れるものなの?

 モモ、そして凪徒もさすがにビビり、更に、